市内を縦横に流れる水路があることから水の都と呼ばれている福岡県柳川市で、株式会社石橋鉄工所の2代目として経営を担う石橋輝喜さん。
長年培ってきた精密加工技術を活かしてunimet(ユニメット)というブランドを立ち上げ、コースターなどを製造している。
こだわりの詰まったコースターには、石橋さんのゼロ→イチを純粋に楽しむ姿と、妥協なきモノづくりへの想いが詰まっていた。
今はまだ”無いもの”をつくる
父親が創業した石橋鉄工所の次男として生まれた石橋さんだが、学生時代は家業を継ぐ意識はなかった。
「小学生の時から金属に穴を開けたりして会社を手伝っていたので、モノをつくるのは好きでしたね」父親からの誘いを機にそうした気持ちを思い出した石橋さんは、インテリア関係の会社からの内定を断り、石橋鉄工所へ入社した。「一貫してあるのは“無いものをつくる”のが好きなんでしょうね。そして人が喜ぶ方がいいかな、と」
鉄工所の仕事でも「これ、作れませんか?」と相談がきて、ゼロからイチをつくり上げるときが一番楽しい。そして作った商品を相手が喜んで買ってくれる。そんな仕事がしたいと思い、石橋鉄工所での仕事を始めた。
真逆の境遇で変わっていく自分
しかし、入社後は既に安定した顧客の存在があり、決められたことを決めた精度につくり出す“作業”が大半。石橋さんの“好き”とは反対方向の仕事だが、いつしかそれが普通になっていき、新しいものをつくりたい気持ちは薄れていった。
会社としては年々売上も伸び、新工場をつくる、人を増やすといった方向に舵を切っていった。順調に成長する姿が見えていたが、そこにリーマンショックが訪れる。
売上は激減し、新調した高額の機械も稼働する予定が立たなくなった。危機的な状況に、石橋さんは人生初の営業を始めた。
納得できるまでやり切る
経営者である義父に営業のイロハを聞き、「言われたものは何でもやる」というアドバイスを全うした。なんとか本業の金属加工で仕事を増やす一方、新しいことに挑戦する時間もできた。知り合いからたまたま声がかかり、全く取り組んだことがないカフスづくりにも取り組んだ。日中は現業の仕事に取り組み、夜はそのカフスの開発。
「それがめちゃめちゃ楽しくて。日常に追われる業務にも慣れてつまらなくなる部分もあったけど、自分がやりたいことでもある”ゼロ→イチ”を作る仕事なので、全然きつくなくて」
本業で培った「どれだけ精度を高めるか」に加え、見た目もよくしていく。そのためには0.1mmの精度に何度もこだわり、試作は200を超えた。これは本業にも活かされ、本業の仕事も評価される。良いサイクルが回り始めた。
お客さまの喜びのために妥協しない
石橋さんは“お客さまが必要とするゼロ→イチ”を生み出すために妥協は一切しない。そして、そのスタンスは、評判が評判を呼び、会社の危機を乗り越えることにつながった。
「『言われたものは何でもやる』ということを妥協せずにやった結果、いろんな人との出会いが生まれました。あと、自分が出会った人同士を繋ぐことも好きなので、地元の同業界の会社を取りまとめて工業会を立ち上げました」
人付き合いが好きだと語る石橋さんの表情は、本当に楽しそうだった。
そんな石橋さんが、カフスの次に取り組んだのは、unimetと言う自社ブランドの立ち上げだった。
「unimetには、オリジナルをつくれる、が全部に入ってるんですよ」
お客さんが「こうしたい」を形にできるよう、組み合わせによる商品バリエーションの多さにこだわった。バリエーションを多くするモノづくりは難易度が高かったが、妥協しない石橋さんのスタンスにより原価低減に成功し、適正な販売価格を実現した。そうしてリリースされたunimetのコースターは、贈り物に使っていただくことが多い。
「相手のことを思いながら、『あのひとならこの柄だよね』とか会話してもらって選んでいただけると嬉しい。手にとって嬉しそうな表情が、一番楽しいですね」
人が喜ぶモノを自分が生み出せることに喜びを感じられる。そんな石橋さんがつくるコースターには、こだわりを表すような上質さはもちろん、喜びや想いも表現されたコースターだ。