群馬県高崎市は県南部に位置し、音楽に関する活動が盛んな街でもある。その高崎市に本社をおく日東電化工業は、錆びさせない金属加工の技術を有するメーカーである。
日東電化工業の専務取締役である茂田正和さんはその技術を生かし、新規事業の一つとして自社ブランド「HEGE(ヘゲ)」を立ち上げた。
「美しくエイジングを楽しんでほしい」という茂田さんの想いや、モノづくりの根底にある価値観は、とても一貫性があり、そして力強いものだった。
自ら創り出す
茂田さんは、中学生の時に始めたサックスがきっかけとなり、音楽の道を志していた。
「大学を途中で辞めた後、お金を貯めてレコーディングエンジニアの専門学校に通ったりしましたね。その後は、友人と一緒にアジア雑貨とライブハウスを兼ねたお店を開業しました」
その時の年齢は22歳だったという。
「経営について何も知らなかったこともあり、お店は1年で潰れてしまいました。ただ、そこから就職しようとは思わず、何か自分で出来ないか考えていました」
そんな中、転機は訪れる。
「母は美容への関心や意識が高いのですが、ある時、肌の疾患を起こしてから化粧品が合わなくなり、使える化粧品が無くなったんです。だから、僕が作ってあげようと思って自宅のキッチンで化粧品をつくり始めました」この出来事が茂田さんがモノづくりの道へ踏み出すきっかけとなった。
「元々、料理を作るのが好きだったんですね。家なのに外食しているような気分になれる料理を母に作ったりしてました。モノを作ること自体は、ずっと好きだったんですよね」
その後、しばらく自営で化粧品作りを行い、2004年に家業でもある日東電化工業へ入社した。
喜ぶ人がいるかどうかが大切
茂田さんには、モノを作る上で大切している考え方がある。
「僕のモノを作る原動力は、自分が作ったモノを使って喜んでくれる人がいるという事象ですね。人に喜んでもらうために、日常に非日常を取り入れるというコンセプトを込めたモノを作っています」
これは、家なのに外食している気分になれる料理を作っていた時から、全く変わらない茂田さんらしさだ。「小学生の時に、父の仕事関係の人を家に招いて会食が行われたことがありました。その時に、デザート作りを父から任されたんです。クレープシュゼットというフレンチのデザートを作ってみたんですが、それを仕事関係の人たちが、すごく喜んでくれたんですよね」
この出来事が原体験となった。
細部までのこだわり
茂田さんには「HEGE」へ込めた強い想いがある。
「最初のまっさらな状態のHEGEが、維持されることを目指してない。むしろ、使い込まれることによって色々出てくる風合いの中に、人とモノの歴史が刻まれていく状態を目指しています」
だからこそ、「HEGE」は日東電化工業の金属加工技術を生かすと共に、アルミニウムを素材として選択したのだ。「機能性だけ考えたら焦げ付かないテフロンの方が良いんです。ただ、テフロンが剥がれたら捨てるしかない。結果的にモノを短命にしているように思います」
- そんな茂田さんが「HEGE」を通じて伝えたいこととは -
「美しくエイジングを楽しんでほしいです。例えば、肌も食べ物から出来ていますよね。だからHEGEで、忙しくても手軽に良い料理を食べるというライフスタイルを作っていきたい。そのために、体のコンディションや季節に合わせ、たった15分で作れる料理を提案してます」
洗い物ができるだけ減らせるような商品設計や、熱したり冷やしたりしやすいアルミニウムを素材として扱っているところに、その想いが詰まっている。「僕は『人と人がコミュニケーションするための触媒を作っている』と思っています。食材だけ切って、あとは食卓の上でHEGEを使って、ビールでも飲みながらみんなで料理をする。そうすると、肩の力を抜いた会話ができると思うんですよね」
インタビュー中、常に自分の考えを力強く話してくださった茂田さん。しかし、その根っこには”人の喜びを大切にしたい”という価値観がある。そんな想いが詰まった「HEGE」を、喜ばせてあげたい大切な人に贈ってほしい。