ルーツを辿ると約400年の歴史をもつ波佐見焼は分業によるモノづくりがメイン。しかし、1984年に創業された山下陶苑は、波佐見焼では珍しい一貫生産をしている窯元。
3代目社長の山下和久さんは、根っからのモノづくり好き。
そして一方では、厳しい経営環境の中、どう経営を立て直すかを考え、実行してきた強い経営者でもある。
その両方がうまく織り交ぜられている山下陶苑のモノづくりへのこだわりを伝えたい。
本質を見据え、夢中でやり続ける
山下さんは昔から、モノづくりへの興味が強かったという。
「小学生の頃からプラモデルを組み立てたり、絵を描くのが好きでした。夏の暑い日、おやつのアイスに目もくれず、没頭してやってましたね。ラジオがどんな仕組みになっているのか気になり、分解したこともありました」
モノづくりの道に進むために、高校で平面デザインを学んだ後、焼き物の専門学校へ進んだ。
「専門学校を卒業してすぐに、山下陶苑へ入社しました。しかし当時は量産の時代。同じ時間でどれだけ多くのモノを作ることができるか、が勝負でした」
しかし、その当時のやり方では厳しい経営環境から抜け出せなかった。「ヒット作を作っても、すぐに他社に真似されてしまう。だから、自社にしかできない製法や技法を開発しようと思ったんです」
そう決めた山下さんは、17時までは量産の仕事をして、その後の時間を使って夜中まで開発の仕事をするという生活を続けた。
「一珍という技法があるのですが、当時は白色しか表現できなかったんです。でも開発を続けた結果、白以外の色も表現できるようになりました」山下さんの本質を見据えた努力により、競合他社に真似されにくい、自社ならではのモノづくりができるようになったのだ。
ワクワクを追い求めたい
自社ならではの製法を開発した山下さんだが、探究心は無くならない。
「まだ世の中にない製法や技法はあるので、試してみたい事がたくさんあるんです」
その原動力は、何なのか。
「世の中にないモノを作るのが楽しくて。それを完成させた時に『やったぞ』って思いたいんですよね。つくり手として、ワクワクする製法でモノを作りたい」
そんな想いから生み出されたモノの一つに自社ブランド「nucca」がある。
「量産品ではないということをモノからも伝えたくて、どう表現すべきか試行錯誤しました。クラフト感が伝わる質感を目指して、釉薬の配合を色々と試し続けた結果、納得のいくモノができました」社長に就任したあとは経営の立て直しを優先してきたが、根っこにあるモノづくり好きは、昔から変わっていないのだ。
「自分が作ったモノを窯に入れて焼いて、その窯からモノを取り出す時が、今も一番楽しいんです。その日は、遠足前の子供みたいに早起きしてしまう。何事にも変えられない瞬間ですね」
繊細な仕事が作り上げる自社らしさ
山下陶苑では、社員が自分が好きなモノを作るための機会を提供している。
「例えば、催事に出品するために、社員が自分たちでデザインしたり、試作をしたりしています。催事で、自分でデザインして作ったモノを、実際にお客さまが手に取っているのを見た社員は嬉しそうにしてますね」
山下さんのモノづくりへの想いは、社員にも伝播しているのだと感じた。
「作業としてモノづくりに携わるのではなく、『作りたい』と思って山下陶苑でモノづくりに携わる人を増やしたい」インタビューの最後に山下さんは力強く言った。
「本当にやりたいと思っている人たちと、切磋琢磨しながらモノづくりをした方が、色んな良いモノが生まれると思うんです」
山下陶苑の工場へ見学・撮影に行った際、大規模な生産設備があった一方で、社員の方々の”一つひとつのモノに対する繊細な手仕事”を目の当たりにした。
ある意味、相反するような二つの要素だが、そこには本質的に経営を見据えながらも、根っからのモノづくり好きな山下さんのこだわりが、しっかりと表れているのだと感じた。