450年の伝統が続く山中漆器を起点に始まり、ブリザードフラワーなどの事業を展開している株式会社アプラス。
自社ブランドへの挑戦を志し、起点である漆器で「YUIYU」というブランドを立ち上げた。
立ち上げの中心となった田邉さんは、漆器の仕事とは縁遠いフラワーデザイナーだった。全く違う仕事をしていた田邊さんは、なぜ「YUIYU」を生み出すことになったのか。
変わらない起点
田邊さんは幼少の頃、母親が庭で花を育てる姿を見たり、母親が焼いてくれたお菓子を食べたりして過ごしていた。
「そんな母の姿を見て、花屋かケーキ屋になりたいと思ってたんです」
日常にあるものを、そして好きなことを仕事にしたいと思っていた田邉さん。幼少の想いを変えずに花の道を選び、専門学校にも通った後、花の仕事に就いた。
「花屋は見た目は華やかでも、桶を抱えて力仕事があったり。でも相手の顔が見える仕事なので、楽しかったですね」
華やかさばかりではなく、廃棄も必要な“花屋”の一面や、力仕事もあり決してラクではない仕事。
それでも根底にある「花が好き」がぶれなかった。
自ら楽しいものにしていく
その後、結婚・出産を経験し、会社の環境も変わっていったため、花の仕事から離れることを決意。いくつかの仕事を経験する中で、人のつながりでアプラスへ入社。
再び花の仕事に就いたが、そこで扱うものは、生花ではなくブリザードフラワー。生花には”香りがある”ことも田邉さんの喜びだったので、生花と比べると充実感は劣る面もあった。
それでも、
「ブリザードフラワーでも香りの感じられるものを開発したり。あとはお客さんの期待を超えたいなって」
田邉さんらしく自ら仕事を充実させていった。
その中でアプラスとして自社ブランドの立ち上げの話があり、当初は花を中心に立ち上げる予定だったため田邉さんに声がかかった。
しかし次第に、花ではなく漆器で立ち上げることになっていった。「最初は楽しそうじゃないなって思いました。花でやるぞ!ってなってたのに…」
こんなことも正直に伝えてくれる田邉さん。それでも立ち上げを続けた理由は何だったのか。
誇れるものを、誇れる人たちと一緒に
田邊さんはYUIYUの器の各工程を担当してくれる職人さんと会話する中で感じるものがあった。「アプラスの従業員や山中漆器の職人さんは、誇れる仕事をされているんです。なのに、その誇りを自慢することはしない。YUIYUを立ち上げて世の中に出していくことは、その誇りを広く届けることに繋がる。それができるのは私たちなのに、やらなくてどうするんだろう、と思うようになりました」
東京で育った田邉さんにとって、自慢できる、誇れる伝統は身近にはなかった。それが山中漆器の地にはある。
「私、自分がやっている仕事には誇りを持ちたいと思ってやってきてるんです」と真っ直ぐ伝える田邉さんにとって、職人さんや関わる人々の誇りを取り戻すことができることは、YUIYUを立ち上げる大きな原動力になった。「『この木なんですか』からのスタートなので。でも『ど素人が来たから教えてやるか』って職人さんも侠気で接してくれて」
田邉さんが素人がゆえに投げ掛けられる言葉や、「もっとこうできないですか」といった素直な投げ掛けは、職人も良い意味で巻き込まれていった。
こうして、田邊さんのフラワーデザイナーの視点と、山中漆器の職人たちの技が結ばれ、YUIYUが生まれていった。
「最初は…」と言っていた田邉さん。その手にYUIYUの器を持つ表情は、子どもが好きなものを持つ純粋で心から嬉しそうな表情だった。