
美濃焼の産地、岐阜県瑞浪市で1953年に創業された陶磁器メーカーの大恵。
元々、事業の中心は、飲食店向けなど業務用の焼き物だったが、2020年に一般消費者向けの自社ブランド「つばめ工房」を開発した。
そこには、社長である大江敬和さんの業界やモノへの温かな想いがあった。
絶対に変えない大切なこと
大恵に入社する前の大江さんは、ずっと商社で仕事をしていた。
「私の父は焼き物の商社を経営してました。その商社の後継者である私の兄に、大恵の前社長が『後継者がいないから会社を買ってくれないか』と相談したんです。それがきっかけとなり、兄が大恵をM&Aをして、私が社長として着任しました」
2015年に大恵の社長へ就任した大江さんだが、メーカーの仕事は初めてだった。
「モノづくりが、こんなに大変だと思ってもいませんでした。作りたいモノを作るのに、これだけ時間と手間とお金がかかるのかと」
それでも、モノづくりにひたむきに向き合い続けたのはなぜか。
「商社という立場でずっと焼き物に携わっていた父から『窯の火を消すことなかれ』と言われ続けてきたんです。窯元さんを無くしてはならない、業界を衰退させるなという意味ですかね」
また「窯焼き屋さんを大切にしろ」とも言われ続けたという。
「商社勤めをしていたある時、車に焼き物を積んで、父と一緒に出掛けることがありました。車を走らせた時に、積んでいた焼き物が段ボールの中で少し触れ合って『カチャカチャ』と小さな音が出たんです。この時、父から、めちゃくちゃ叱られました」
”窯焼き屋さんを大切にしろ”という言葉には、メーカーさんが作ってくれているモノを決して粗末に扱うなという意味も込められていたのだ。
業界の未来のために
そんな大江さんは、なぜ「つばめ工房」を立ち上げようと思ったのか。
「美濃焼の業界を元気にしたい。業界は衰退しつつあるのですが、それを変えたいと思ったんです」
大江さんは、そのために、まずは業界の人が潤うような状態を作るべきだと考えた。
「美濃焼は大量生産品が多いため、価格の安い商品が多いんです。だけど、そもそも大量生産・大量消費の時代は終わってる。だからこそ、ひとつひとつ想いを込めて手作りをした付加価値のある商品を、適正な価格で売っていくべきだと思ったんです」
こうした背景から開発された「つばめ工房」は、黒土という特殊な土を用いている。
「黒土を使ってみて分かったことなのですが、取り扱いが非常に難しい。35年の経歴を持つ工場長しか、うまく扱うことができないんです」
この黒土による独特の風合いが「つばめ工房」の商品の高級感を引き立てている。
「美濃焼は、大量生産品も作れるけど、こういう高級感のある商品も作れるんだということを伝えたい。その意味で『つばめ工房』が少しずつ地元の商社さんに広がりつつあるのが嬉しいんです」
業界を元気にしたいという大江さんの想いの根底には、「窯の火を消すことなかれ」の精神が宿っているのだと感じた。
丁寧な手仕事が宿す愛着
「つばめ工房」をはじめ、大恵のモノづくりは、ほぼ全てが手仕事だ。
「陶器は生き物なんです。同じ様に作っても、気温や湿度の違いで焼き上がりの色が微妙に変化するので、全く同じモノはできない。これを良い意味で許容範囲として欲しいんです」
大江さんは、まるで自分の子供のことを話すようにこう語る。
「機械で作られる大量生産品は、ほぼ同一規格の商品が出来る。だから規格と違う商品は全て廃棄されてしまう。でも、そんなんで捨てられたら、モノが可哀想じゃないですか。メーカーとして自分たちが作り出したモノに世の中の空気を吸わせてあげたい」
大恵のモノづくりの全ての工程を見学した時に、本当にひとつひとつ丁寧な手仕事でモノづくりをされているのを目の当たりにした。
そして、それを説明してくださった工場長の林さんが、楽しそうに話をしているのが印象的だった。
自分たちの仕事と、そこから生み出されるモノへの”愛着”をとても強く感じた。