
日本のほぼ中心に位置する岐阜県の東美濃地区では、飛鳥時代以前から焼き物が作られている。その東美濃で明治元年に創業した陶磁器メーカーの晋山窯ヤマツ。
四代目経営者の土本正芳さんは ”幸せになる、世話を焼く。”というポリシーのもと、モノづくりをしている。
その言葉に込められた晋山窯ヤマツ/土本さんの想いとモノづくりにおけるこだわりを伝えたい。
納得できないことには、トコトン向き合う
昔から納得できないことはやりたくないというタイプだという土本さん。
「例えば、中学校の時は男子は坊主が当たり前だったんです。ただ、それに納得できなくて先生に『なぜ坊主じゃなきゃダメなのか』と聞いたりしてましたね」
そのスタンスが周囲の学生からの信頼を獲得し、中学校ではバスケット部の部長や生徒会長を務めたという。
「生徒会長に立候補することになった時は、校長先生から両親共々呼び出されて、余計なことは言わないよう釘を刺されましたが」
当たり前のことであっても、自分の頭で考え、納得できないことに対して、きちんと向き合い行動するという土本さんのスタンスは、今の晋山窯ヤマツのモノづくりにも反映されている。「昔から東美濃地区の陶磁器は、商社を挟む商流が一般的でした。ただ、それだと売値が硬直的になるので、結果的に自分たちの仕入れ先を大切にできなくなると思ったんです」
そう考えた土本さんは、自分独自の商流でビジネスを拡大させていくことになる。
甘さではない優しさ
その一環として取り組んだのが、自社ブランドの商品の開発だ。
「商社の商流の中でやっていたので、生産するモノは業務用のOEM商品がメインでした。しかしある時、知り合いから『なんか良い陶磁器はない?』と聞かれた時に、紹介できる自社商品がないことが悔しかったんです」この出来事をきっかけに、外部のデザイナーに入ってもらい、自社商品の開発を進めることを決意した。
「最初の三年間は、二つしか商品開発ができませんでした。ただ、たくさんの商品の提案をしてもらう中で、自分たちがモノづくりにおいて大切にしたいことが見えてきたんです」
土本さんが大切にしたいことは、誰もが幸せになるものを作るということだ。
「前提として、自分たちが使いたいと思える良いモノを作りたいんです。お客さまから、これは家に置きたくないと思われるような自社ブランドの商品は作らない」
その上で土本さんは、仕入れ先の幸せも大切にしている。
「僕が社長になってからは、仕入れ先さんに対する値引き交渉や返品は一切しないことを決めています。もちろん仕事なので、品質が低い場合には言葉を尽くして会話をし、それでも難しい場合は、別の仕入れ先さんへ変更することはありますが」甘さではない”優しさ”が土本さんの中にはある。
求められたから、ではなく、必要だからやる
土本さんの”優しさ”は、どのようにして培われたのか。
「父親や母親に大切に育ててもらったなと思っています。その影響なのか、周囲の人たちに対して、自然に『ありがとう』と思えたり言えたりするようになりました」
ともすれば弱い立場になることもある仕入れ先の幸せも大切にしようとする土本さんの価値観は、両親からの惜しみない愛情によって培われたものなのだ。
「自社だけが良いと思って仕事をしていると、いずれ産地がなくなってしまう。仕入れ先さんも含め、みんなが幸せになるモノづくりをして、産地に対して恩返しをしたい」
- 幸せになる、世話を焼く。 -
土本さんは、誰かに求められたから、ではなく、自ら人の幸せを願い、モノづくりをしているのだと思う。その素敵なスタンスが ”世話を焼く。”という言葉に詰まっているように思う。
工房見学に伺った時、社長である土本さんと社員さんの距離感が近く、とても明るい職場だと感じた。そんな職場で作られるモノを通じて、土本さんの想いは、より多くの人へ伝わるだろう。