
1946年に富山県高岡市で創業された砺波商店は、アルミ製食器などの企画・製造・販売を行なっている。
企画部長の砺波敬之さんは、2022年に自社ブランド「うつわむすび」を立ち上げた。
その根底には、砺波さんの中のモチベーションの源泉である”人に喜こんでもらいたい”という価値観があった。
ずっと心の底にあった想い
砺波商店は、砺波さんの祖父が立ち上げた会社である。
「幼い頃からずっと『いずれは敬之が後を継がなきゃいけない』と言われてました。ただ、あまりにも言われ過ぎて、逆に反発心が生まれたんですよね」
その反発心もあってか、砺波さんは大学進学・就職では地元である富山を離れた。
「ただ、砺波商店のことはずっと頭にあったんです。だからいつか役に立つかもと思い、大学と大学院では金属工学を学びました。そして、そのままメーカーの技術者として就職するんだろうなと思っていたんです」
しかし、砺波商店で営業として仕事をする父の姿を見た時に、気持ちが変わったという。

「大学の時に、砺波商店が展示会に出てたので手伝ったんです。その時、父の提案でお客さんが喜んでいる姿を目の当たりにしました。それがきっかけとなり、営業を極めてみたいと思うようになりました」
結果的に、東京にある東証一部上場のコンサルティング会社へ就職し、最終的には営業やマーケティングの部長職を務めた。
「コンサルティング会社の仕事も楽しく、順調でした。ただ、コロナの時に父から初めて、助けて欲しいというような相談をされたんです」
それがきっかけとなり、2021年に砺波商店へ入社することを決めた。
地元のために
砺波さんは、入社した翌年の2022年には自社ブランド「うつわむすび」を立ち上げた。
「地元である富山に戻ってきた以上、何かを残したいと考えました。富山の現状をみた時に、若い人たちはいるが就職先がないから県外に出て行く。この現状を変えたいと思ったんです。地域貢献ですね」
砺波さんのモチベーションの源泉が垣間見えた。
「正直、自分たちだけのことを考えると、当時の砺波商店の、旅館や飲食店向けなど業務用メインのビジネスのままで良かったんです。だけど、富山の現状を変えるには事業を生み出し、雇用を創らなければならない。そのためには、自社の売上を2倍3倍にしていかなければならないと考えました」
こうして、一般消費者向けの商品として「うつわむすび」が開発されたのだ。
「必ず国産の素材を使うことにこだわっています。できるだけ、地元の協力メーカーさんにご発注したいんですよね」
人に喜んでもらうことが、砺波さんにとっては何よりの報酬なのだ。
細部までこだわる堅実さ
地域貢献という高い視座の中で生まれた「うつわむすび」だが、実際のモノづくりは堅実そのものだった。
「必ず一般消費者の声を起点に、商品の開発や改善を行なっています」
そこには砺波さんが前職で学んだことが生かされている。
「前職では、飲食店や小売店向けに、一般消費者の声を起点としたサービス改善の提案をしてました。その時、きちんと一般消費者の声に向き合い自社のサービスを改善していた飲食店や小売店には、ファンが生まれ、結果的にコロナ禍でも潰れなかったんですよね」
「うつわむすび」のこだわりは、それだけではない。
実は、生地の製造は高岡市に数社しか残っていない職人による手仕事で行われている。
機械による製造では生地の表面が均一で凹凸が少なく、単調な色合いになってしまう。そのため、あえて凹凸が出てくる職人の手で作ることで、様々な色を重ねることができ、何とも言えない趣のある色合いを表現することができるのだ。
地元にいる人、商品を共に作る人、そしてそれを使う人。
いろんな人に喜んでもらえるモノづくりは、「うつわむすび」の細部まで、色濃く反映されているのだ。