宮崎県北部に位置し、工業や農林水産業など多様な産業を有している延岡市。
その延岡市でヒノキ専門の製材業を行っているトレードレーベルは、自社ブランド「haus」を立ち上げた。ブランド立ち上げを推進した執行役員・クリエイティブディレクターの宮木健二さんは、元々美術館で仕事をしていたが、デザインがもつ本質的な価値を認識し、モノづくりに携わるようになった。
そんな宮木さんの「haus」に込めた想いやその根底にある価値観をお伝えしたい。
困っている人を笑顔にしたい
小さい頃から絵を描くことが好きだった宮木さん。
「高校で美術部に入り、大学は美大へ進学しました。最終的には大学院で現代美術の作家論を研究してましたね」
大学院卒業後は、美術館で文化的な仕事をしたいと思い、横浜美術館の仕事に就いた。そこで、転機が訪れる。
「神戸の新しい美術館の立ち上げプロジェクトの声をかけてもらい、内定していました。ただ、その直後に阪神・淡路大震災が起きて、プロジェクトが立ち消えになったんです」
当時の宮木さんは、現地のプロジェクトの方に一通の手紙を送ったという。
「当時は未曾有の状況で、この先どうなるのか自分も不安でした。だけど、被災地にいる人たちは、もっと不安だろうなと思ったんです。だから、自分にできることはなんだろうと考え『力になれるのであれば、ボランティアに行きます』という内容の手紙を送りました」
そこには、宮木さんがずっと大切にしている価値観があった。
「困っている人たちを笑顔にするために、自分ができることは何なのか。そんなことを考えてましたね 」
この価値観が、デザインの力を使ったブランドマネジメントの仕事をすることに繋がっている。
自分が信じるもので人の力になりたい
宮木さんは、社会人になってから、デザインに対する捉え方が変わったという。
「大学の時は、デザインは表層的に楽しむものという感覚でした。ただ、デザインの語源は、仕組みを作るということ。仕事をする中で、それを実感する機会が増えたんですよね」
そう感じた宮木さんは、美術館の仕事を辞めて、デザインの領域で独立した。「斜陽化している産業の中でデザインの力を使って、現代のライフスタイルに合わせた用途開発を行い、立て直したいと思いました。そうすることで、そこに携わっている人たちを笑顔にできるんじゃないかと」
そんな想いでプロダクトデザインやブランドマネジメントを行っていた時に、トレードレーベルと出会った。
「 ANA CREATIVE AWARD」というコンテストに応募するために企画したプロダクトで、ヒノキを使うことにしました。その時に、紹介されたのがヒノキの製材業を行っているトレードレーベルだったんです」
結果的に応募したプロダクトはグランプリを獲得。また、その時の縁がきっかけとなり、トレードレーベル内で新しいブランドの立ち上げを行うことになった。
良いモノに正しく光をあてる
自社ブランド「haus」立ち上げのきっかけは、宮木さんが製材業の”当たり前”に着目したことだった。
「製材業をやっていると毎日すごい量のおがくずや端材が出るんです。そこからも、すごく良い香りがしたんですよね。携わっている人は、慣れてしまっているので香りに気づかない。そして、勿体無いことに端材は産業廃棄物として処分されていたんです」
ヒノキのおがくずや端材に含まれる油分を抽出し、それを生かすというのが「haus」の商品開発の考え方である。
「端材などを使うので、無駄がなく環境にも優しい。またヒノキは、建築資材としても使われている要因でもあると思いますが、安心・安全な素材なんです」
「haus」は、ボトルのキャップにもヒノキの端材を使っている。
「ヒノキにもっと注目して欲しい。だから商品の中にヒノキそのもののパーツを取り入れたかったんです。五感をフル活用してヒノキを感じてもらえると嬉しい」
ヒノキは日本固有のものであり、世界に胸を張って発信できると語る宮木さん。実際に工場へ伺った際に感じたヒノキの香りからも、そのポテンシャルを十分に感じた。ぜひ「haus」を通じて、日本固有の素材を感じてみてほしい。