金属洋食器の発祥の地であり、国内生産量の95%を生産している新潟県燕市。
その燕市で2017年に創業されたアルチザンは、燕市の技術や商品と他の地域の伝統的な技術を組み合わせた商品開発により、新たな価値を生み出しているメーカー。
創業者の長澤政幸さんは、55歳の時にアルチザンを起業した。その背景には、長年、燕市の金属洋食器に携わってきたことにより生まれた決意があった。
アグレッシブな性分
燕市で生まれ育った長澤さんは、地元にある日本金属洋食器工業組合に新卒で入社した。
「経済産業省の管轄になる会社で、最初はアメリカに対する洋食器の輸出量の調整を行ってました。次第に、いろんな事業を行うことになり、洋食器業界向けにドイツの素材の調達支援や人材不足に対する支援を行ってました」
そこでの長澤さんの仕事ぶりを見ていた金属製品のメーカーの社長から誘われたことをきっかけに、10年勤めた日本金属洋食器工業組合を退職し、金属製品のメーカーへ転職した。「もっと忙しいところで仕事をして、やったらやった分だけ評価してもらいたいと思った。なので、誘われた時には迷うことはなかったですね」
中学から始めたバトミントンで、高校2年と3年の時にインターハイに出場した経験を持つ長澤さんは、根っからの負けず嫌いでもある。
「結果的に、転職した会社では営業に加え、商品企画やメディア対応なども任されてましたね」
目の前の仕事に、アグレッシブに向き合い続けた結果、会社の中枢的な仕事の多くを任されるようになった。
会社員人生で培ってきた信用
しかし、転職して20年強が経った時から、モヤモヤすることが多くなったという。
「会社員として働いていると、当然ながらモノづくりをする上で制約がある。そうではなく、もっと自分がやりたいモノづくりをしたいと思い始めたんです」
その想いを実現するため、長澤さんは55歳の時に金属製品のメーカーを退職し、アルチザンを起業した。
そんな長澤さんのモノづくりにおけるこだわりは、燕市の技術で作られる商品と他の地域の伝統的な技術を組み合わせて新しい価値を生み出すこと。「燕市には金属ステンレス加工の技術やそれによって生み出される素晴らしい商品がある。これを土台として、他の地域の技術と組み合わせれば、勝負できると思ったんです」
そのためアルチザンは工場を持っていない。地元の企業や他の地域の技術を持っている職人さんの協力を得て、全ての商品を製造している。
「社長になって思ったのは、一人では何もできないということ。人と人の繋がりや付き合いの重要性を実感してますね」社会人として働いた37年間、仕事に対して真摯に向き合い、成果を残してきた長澤さんだからこそ得られる協力なのだと感じた。
モノの美しさの根底にあるプライド
長澤さんは新卒からずっと金属洋食器に携わってきた。
「最初に入った会社で、燕市の金属洋食器が海外にどんどん出ていって勝負しているのを見てました。だから”燕”というブランドへのこだわりは強いですし、負けられないというプライドがあります」
起業してからは、経営的に苦しかった時期もあった。それでも前を向き、アルチザンならではのモノづくりを続けてくることができた理由がある。「金属洋食器で”燕”をもっと強くしたい。強い”燕”が好きなんですよね」
アグレッシブな長澤さんらしい素敵なビジョンだと感じた。
「アルチザンの商品が”燕”と他の産地の起爆剤になって、人材や事業の問題を解決できると嬉しいです」
美しい色合いのアルチザンのブランドには、長澤さんの金属洋食器と”強い燕”へのプライドが宿っている。