京都で1950年に創業し、旗や暖簾、法被をオーダーメイドで作り続けている加藤健旗店。現社長の息子として生まれた加藤剛史さんは、京都に本社を持つ大手メーカーで働きながら、「kiten.kyoto」という加藤健旗店の自社ブランドを立ち上げた。良い意味で感情の起伏がなく、終始穏やかにインタビューに応じてくださった加藤さんには、「kiten.kyoto」を通じて、強く実現したいことがあった。
穏やかさの中に秘められた人への熱さ
父親から勧められ、小学校2年生からラグビーを始めた加藤さん。中学校もラグビー部がある学校を探して進学し、同志社大学でもラグビー部へ所属。社会人になった後も、一部リーグのリームに所属し、5年間続けた。
「元々、消極的な性格だったので、最初の頃は、失敗するのが怖くて、ボール持って走るとかはできなかったんです」
そんな加藤さんだが、仲間のために怖さを振り払って、ディフェンスでタックルをするのは得意だった。「ラグビーは体をぶつけるし、熱くなる。それでも一緒にプレーしたら、敵も味方も関係なく、すぐに仲良くなれる。そこがラグビーの1番の魅力です」
親から人付き合いを大切にしろと言われて育ってきた加藤さんは、出会うべくしてラグビーに出会ったのだと感じた。
特徴があるコトが格好良い
加藤さんは、東京から京都への異動を機に、大手メーカーで働きながら、家業を手伝うようになった。
「加藤健旗店は、妥協したくない人、こだわっている人、思い入れのある人、そういった人たちに”寄り添い”、想いを形にする仕事をしてきた。これがアイデンティティなんです」ただ、そうした完全オーダーメイドの仕事は、売上に波がある。だから、加藤さんは別の売上の柱が必要だと考えた。
「今やっている旗や暖簾は、どう頑張っても衰退産業だと思うんですね。だけど、それを支えてきた技術や日本的な文化、そうした特徴を格好良いと思っているんです」
その特徴を知ってもらうために、これまでの技術を、現代版にリメイクして活用した「kiten.kyoto」というブランドを立ち上げた。「kiten.kyotoをきっかけに、技術や日本的な文化を知ってもらって、これまで加藤健旗店がやってきたような仕事にも目を向けてくれる人が増えたら嬉しい」
素敵な文化に携わっているからやる、と言っていた加藤さんの想いはブランド名である「kiten」=”起点”に強く込められている。ちなみに、「kiten」は”寄添(寄り添う)を音読み”という加藤健旗店のアイデンティティも表している。
楽しても本当の喜びを得ることはできない
大学時代含め、学生生活のほぼ全てをラグビーに費やしてきた加藤さんは、覚悟を持って努力することで得られる達成感を知っている。
「大学で最後に負けて悔しかったけど、達成感が半端なかったんです。ラグビー部のみんなと、本当にやっててよかったと話をしていた。そのレベルの達成感が本当の喜びだということを知っているんです」
加藤さんが尊敬する経営者の好きな言葉に、”思いは必ず実現する”という言葉がある。解像度が高くなるまで、考えぬいて行動し続ければ、必ず実現するという意味。そんな加藤さんが自分の想いを実現するために立ち上げたのが「kiten.kyoto」。一つ一つ手染めで作られている「kiten.kyoto」の商品にはハケの後が残されている。加藤さんの想いに触れながら、ぜひ京都の伝統技術や文化にも目を向けてみてほしい。