2012年に金沢で創業されたsoilは、左官の技術を活かした珪藻土によるモノづくりを行っている。元々は、姫路城の平成の大改修にも携わったイスルギという左官工事を行う会社の一事業部だった。
soilの創業者である石動<いするぎ>さんのお話から感じたことは、soilの”商品開発”と”左官技術”へのこだわりだった。
こだわりが”偶然の出会い”を生み出した
石動さんは、東京の大学を卒業後に、祖父が創業したイスルギへ入社。入社してからは営業の仕事を行っていた。
「左官の技術を工事だけではなく、モノづくりに活かせないかを考えたんです。最初にやったのは、左官の壁をアートにして額に入れて飾るための商品を作ったんですが、はっきり言って売れませんでした」
しかし、左官の技術を使ってモノづくりを行っている面白い人がいるというのが評判になり、デザイナーとメーカーのマッチングをしている石川県のデザインセンターから声が掛かった。
「その時に出会ったデザイナーさんと色んな商品を試作した中に、珪藻土のコースターがあった。使ってみると『水滴を吸うので良いね』となった。これがsoilの始まりだったんです」
左官の技術を活かしたモノづくりをしたい、という石動さんのこだわりが生んだ出会いだった。
技術が生み出すオリジナリティ
コースターを機に、珪藻土を使ったsoilの商品は増えていった。
「バスマットがすごく売れた時に、類似品が出てきて、売上が下がった。その時に価格では勝てないので、品質や相手が作れないモノを作って勝負しようと思ったんです」
soilのモノづくりは、左官の技術を活用している。
例えば、珪藻土の商品を作る前には、シリコンで型を作りその中に珪藻土を流し込んで固める”型起こし”という技術を使っている。
また珪藻土は、季節によって水の量を変えなければならなかったり、気温で乾き方が変わったりする。こうした繊細な部分への微調整も、左官工事で珪藻土を取り扱っていたからこそ成せる技である。「うちは新商品開発のスピードが早い。そして、複雑な型の商品も作れる。それができるのは、優秀な左官の技術者がいるのと、シリコンによる”型起こし”の製法を取り入れているから。うちのような作り方をしている会社は無いと思いますよ。』
左官の技術は、商品のスタイリッシュさを際立たせ、そしてあらゆる面でオリジナリティが高いモノづくりに繋がっている。
根底にあるのは”生活の中にある不満”の解消
soilを創業して少し経った頃、デパートのバイヤーさんから「あなたは、とても素晴らしいものを作っている」と言われたという。
「『soilのバスマットは、普通のバスマットを洗濯する時に、他の洗濯物と分けて洗わければならないストレスを解消している。そして、soilのドライングブロック(調味料の湿気を吸い取るもの)は、塩が固まって小さじ1杯の塩が取れないストレスを解消している。こうした生活の中にある不満を解消してくれている』と言ってもらえました」常に新しい商品開発のことばかり考えているという石動さんにとって「生活の中にある不満を解消すること」なのだ。
金沢でsoilの商品に触れた時、その美しさや手触りの良さに感動した。
左官の起源は、縄文時代と言われている。昔から日本人に馴染んでいるその技術は、用途が変わっても、私たちの感性と手に馴染むのだと感じた。